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バイク旅エッセイ1 オートバイと一人旅

     1 オートバイと一人旅
オートバイと一人旅

 私はいつも一人で旅をする。
オートバイに乗り始めたころは一緒に走りに行く友達がいなくて必然的に一人だった。何人かでツーリングをしている楽しそうな人を横目で見ながらしぶしぶ一人で走っていた。不安と孤独を抱えながら自分なりにオートバイとの付き合い方を模索し、少しずつ一人旅が私に与える影響に満足するようになっていった。   

 そのうちにオートバイに乗る友達が少しは出来たが、今でも基本的には一人で走る。
気の合う仲間との集団走行はそれはそれで楽しいのだろう。でも私は単独行動の本能が根付きすぎていて、代わりに何かが欠けてしまったのかもしれない。グループで行動することが生理的にあまり向いていない。オートバイは私にとって一人になるための手段でさえある。

人に合わせたり気を遣わなければならない集団行動より、自分らしくいられる孤独が良い。
自ら選択した孤独は心地よいものだ。日常の生活では様々な人との関係性の中で生きていかなければならないが、一人旅では自分のためだけに時間を使うことができる。
自分の気質に合うものを選択し合わないものを排除して旅を進めていく。見たいものを見て好きなものを食べて、走りたいだけ走ることができる。
一緒に走っている人をちらちら気にすることもないから、私はただ前を見てあれこれ考えながら走る。
まったく世の中には生きるのに必要ではない情報に溢れているから、内省の回路を取り戻すのには高速道路やまっすぐな田舎道などはうってつけである。
車とは違い音楽も何もないのだから、自分で歌を歌う以外にはただ前を見て何かを考えるしかすることがない。ああでもない、こうでもない、と考えるためにひとり旅に出るのかもしれない。飽きるほど自分自身と向き合い「自分はどうしたいのか」「どう生きていきたいのか」を考えることもあるし、答えの出ないような問いを延々と考えることもある。私にとってはなりたい自分になるための貴重な時間である。

 それから私は判断力が鈍らず、五感を最大限使えるような状態で旅をしたい。
誰かといると自分がどこに向かっているのか分らずとも何となく走れてしまう曖昧な感覚が好きじゃない。他人が何とかしてくれるだろう、とつい心のどこかで甘えが生じることも私に良い影響を与えないように感じる。楽であることと楽しいこととは一致しないものである。私は自分で決めた道を自分自身で歩みたいのだ。

しかし誰かに頼るのではなく自分一人きりで行動しなければならないから、心細い時は少なくない。いやな思いをする時もある。でも出来ることは自分が思っている以上に多い。オートバイの知識や技術がない私でも今までの旅は意外となんとかなってきた。
自己の過大評価はあまり良いものではないが自分の能力を必要以上に低く見る必要もない。人間の進歩発展の根源的な障害となるのは自信の欠如である。オートバイと一人旅

ただどう頑張ってもできないものはできない。なんとか自分を奮い立たせて乗り越えようとしても、明らかに自分の能力の範疇を超えていることはある。元来私は負けず嫌いであったが、旅においては時に自分の執着を捨てることの必要性を学んだ。次に同じ失敗をしなければ良い、そう思って潔く誰かに手を貸してもらうことを覚えたのである。私は他人の助力なしには旅を続けられなかっただろう。

 とはいえ、一人旅の醍醐味として「人との素晴らしい出会い」を語るタイプの人間ではない。
私は社交的ではなく、旅先で積極的に人と交わろうともしていない。話しかけられなければ自分からは話しかけない。出来ればずっと一人きりで黙々と走り続けていたい。
世の中には見知らぬ私に親切にしてくれる好ましい人間もいれば、私の道義的な気質に抵触するいやなことを言う人間もいる。どちらもそれなりに愛想よくとりとめのない話をすることは出来る。でも知り合いを増やすために旅をしているのではない。一人が楽しいから見知らぬ土地に一人で行くのだ。
寂しい時がないわけではないが充実した孤独であって、私は少しも不足を感じない。一人旅をして不安と孤独に自由を感じているように思う。

 これが今の私が選ぶ旅である。ツーリングの楽しみ方は私が考えている以上に多様であろう。
気の合う仲間や恋人と同じ趣味の時間を共有できるのはきっと楽しいことだろうし、出会いを重んじる旅人が人間の多様さを知り世界の広さに思いをはせながら旅を続けるのもいいだろう。
そして一人になりたい人はとことん一人で走り続ければいい。
それぞれが自分の求めるものを、自分の気質に合うものを、その時その時選べばいいだけの話だ。


(2007年5月 筆)


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