|

5 乗り始めた理由 ~今に続く道
なぜバイクに乗ることを選択したのか、人は覚えているだろうか。
私に関してはバイクは遊び道具ではなかった。通勤や通学の足でもない。最初から、日常を離れて旅をするための道具としか考えなかった。
バイクの免許を取ろうとしたきっかけは覚えていない。友達や親兄弟が乗っていたわけでもなく、彼氏の後ろに乗って・・・という楽しい思い出があるわけでもなく、何かしら誰かから影響を受けたのかもしれないが記憶にない。なぜ17歳の頃あれほどまでにバイクに執着したのか自分でも理解に苦しむが、どうしてもどこか遠くへ一人で行くことが必要に思えて、その手段はバイクでありたかった。免許を取ることに周囲の反対がないわけでもなく、不安じゃないわけでもなかったがバイクを手にいれなければ前に進めないと真剣に、大真面目に考えていたことを覚えている。
それは今思えば、自分の思う通りに人生を生きたいという欲求から生じていたように思う。
高校生だった私は日々の生活に居心地の悪さを感じていた。それは思春期に誰もが感じるようなもので、自分の居場所はここではないなどと生意気に思うばかりで、それでは何をすればいいのかも分からない。ただ、自由のない窮屈で退屈な日常からぬけだしたかった。それは逃げだったのかもしれないが、このままでは人生に耐えているように見えるそのへんの大人と同じ種類の人間になってしまいそうで怖かった。
私はそうはなりたくない。なりたい自分になるためには自ら行動を起こさないといけないのである。
世の中には確かにつまらないことが多いけれど、私が知っているほどに世界が狭いはずがない。私はバイクで旅に出て、今まで知らなかったことを学びたかった。外界へ出かけて行ってそこであれこれ観察することは世界を知る一つの方法であり、自分を知る方法でもある。一つの場所でじっくり考えることや机に向かって勉強することも必要ではあるが、自分で動きださなければ決して見ることのない景色を、自分の目で見て、自分の耳で聞くことも重要なことに思えた。
それに、誰かに連れて行ってもらわないと行けない場所があるなんてつまらないことだと思った。自分が思うように、自分のイメージで進んでいきたい。今までいた場所に自分自身をとどめておくことより悪いことなど考えられなくて、バイクがあれば自分で行きたいところに行けるとそう思ったのだろう。
それから一人で冒険をしたいという気持ちも大いにあった。そうしてバイクと様々な経験をすることを通して、強くたくましい女性になりたかった。本来は自立心も好奇心も旺盛だったのに、大人になるにつれ、人に守られ頼ることに慣れていく女性にはなりたくない。自分のことを自分で決めることもできない大きなお馬鹿さんにはなるのはごめんだった。
そして私は、アルバイトで貯めたお金で教習所に通い、中古でヤマハのviragoを購入した。欲しいものはお金があれば買えるが、そこにはそれ以上の何かがあった。地図を広げて見ているだけで行きたい所に行けると思える。その自由性は生きたいように生きることができるという希望となって、私の人生を明るく照らした。私は少しずつ、自分のイメージ通りに旅を進めていった。
東京を離れて自然の中に身を置けば、意識の質が変わるのがはっきり分かるようであり、旅には忘れていた豊かな生活があった。土砂降りの雨の中、真っ暗な山道で迷った時には心細くて泣きそうになった。芝生に寝転んでバイクとともにうとうとするときなどは幸せで穏やかな気持ちになれた。笑うこともあれば怒ることも悲しいこともたくさんあって、バイクと成長してきたような感がある。
そこはやっと見つけた自分らしくいられる時間であり、自分の本来の人間性を知ることができたのもバイクでの旅によるものが大きい。
今でもバイクで出かける時には周囲の人に心配をかける。私が大切に思う人の平穏を乱すことは心苦しいもので、自分に正直に生きることとと大切な人が心穏やかでいられることの両立は今でも答えが見つからない。
でもバイクに乗っていなければ今の私はない。
私にとってバイクは思うように生きるための手段であり、抑圧からの自由と行動することへの自由を意味し、その意味でよりよく生きるための道具だったのである。私はゆっくりと、今の私へと続く道を歩んでこれたのである。
バイクに乗るようになってから、運命に耐えるのではなく自分の選んだ道を自分自身で歩けるようになった。自分の生活を、人生を、愛せるようになったのである。
いつかバイクに乗らなくなる日がくるかもしれない。
でも、生きたいように生きる環境をつくってくれたバイクと、私の生き方を理解してくれたすべての人たちに感謝する気持ちは持ち続けていたい。
(2007年9月 筆)
HOMEへ>バイクにまつわるエッセイ集>ページトップへ
エッセイ集
→エッセイ冒頭へ
→1オートバイと一人旅
→2自分自身でありたい
→3見えないものにしばられたくない
→4日本一周という目標
→5乗り始めた理由
→6乗らない日々の罪悪感
→7八丈島へ
→8風の香る場所
→9拝啓 オートバイ様
→10日々平安
女性ライダーバイクエッセイ集
当サイトに記載された文章・画像等を転載することを固く禁じます
Copyright(C)2007 matsumoto shiri All rights reserved
|